食品卸売業の銘柄5選:強みや事業展開、サステナビリティの違い

伊藤忠食品

食品を安定的に供給し、豊かな食生活の実現に貢献する食品卸売業界。今、物流の最適化、多様化する消費者ニーズへの対応、グローバル市場の開拓、そして持続可能な社会への貢献といった、数多くの重要な課題と機会に直面しています。

このような変化の時代において、業界をリードする企業群は、それぞれが持つ独自の強みを活かし、データとデジタル技術を駆使したサプライチェーン全体の効率化、商品開発、海外市場への展開、さらには食の安全・安心と地球環境への配慮を両立させる経営を推進しています。

本記事では、食品卸売業の主要企業たちが、いかにしてこれらの課題に取り組み、新たな価値創造を目指しているのか、その多角的な戦略とビジョンを紐解きます。

データとデジタルで食のサプライチェーンを変革する「三菱食品」

三菱食品は、全国を網羅する「フルエリア」、全商品群を扱う「フルカテゴリー」、あらゆる業態に対応する「フルチャネル」という事業基盤を持つ食品卸売企業です。

年間12億件にも上る取引データを活用し、データとデジタル技術を駆使して食のサプライチェーン全体の効率化を推進。「食のビジネスを通じて持続可能な社会の実現に貢献する」というパーパスのもと、経済価値と社会価値の両立を目指しています。

同社の特徴的な取り組みとして、AIの全社的な活用と物流DXが挙げられます。DD(データ×デジタル)マーケティングによる商品開発や販促支援に加え、業務プロセスの自動化・省人化、顧客サービスの向上、さらにはAIを用いた価格設定の検討など、多岐にわたりAI技術を導入しています。

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フードサービス本部ではシステム開発部隊を擁し、顧客ニーズに応じたデジタルツールを内製・提供。

他にも、物流2024年問題にも対応するため、TMS(輸配送管理システム)の導入やトラックのシェアリングサービス「trucXing」、荷主間共同配送プラットフォームの検討など、物流DXを推進しています。

データ分析に基づくオリジナル商品の開発や海外ブランドの調達も行っており、海外事業では日本食文化の紹介と現地事業の構築に取り組んでいます。三菱商事グループとしての連携を活かしつつ、環境配慮型商品の推進や地域社会への貢献といったサステナビリティ活動にも注力しています。

食のインフラを目指す「加藤産業」

加藤産業グループは、国内の食品卸売事業を主軸に、「豊かな食生活を提供して人々の幸せを実現すること」を使命としています。

同社は「食のインフラになる」「食のプロフェッショナルになる」「食のプロデューサーになる」という3つの長期ビジョンを掲げ、生販両層にとって価値ある存在となることを目指し、事業を展開しています。

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常温・低温・酒類といった幅広い食品カテゴリーを扱う卸売事業では、営業と物流が連携。卸売業としての基本機能の向上に努めるとともに、自社ブランド商品の開発・販促も手掛けています。

また、物流現場の改善やデジタル技術の活用を通じた業務効率化にも継続的に取り組み、生産性の向上とコスト抑制を追求。食品の安全・品質管理体制の強化も経営の重要課題と位置付けています。

国内市場が人口減少などの課題に直面する中、加藤産業はマレーシア、ベトナム、シンガポールといったアジア市場での海外事業を展開。これらの地域での事業基盤の構築を目指しています。

酒類を中心に多様なニーズに応える「伊藤忠食品」

伊藤忠食品グループは、食料品卸売事業を中心に展開し、酒類なども取り扱っています。メーカーから仕入れた商品を、百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、外食産業など多岐にわたるチャネルへ供給。

単なる商品流通に留まらず、データに基づいたマーチャンダイジングや小売店の販売を支援するリテールサポート、そして独自の視点での商品開発といった機能を提供しています。

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ナショナルブランド商品に加え、独自の視点で開発したオリジナル商品も、多様な販売チャネルを通じて供給していることも特徴です。

物流機能の提供と、親会社である伊藤忠商事との連携は、同社の事業推進における基盤の一つ。市場環境や物流の課題に対応するため、食の安全・安定供給を念頭に、品質管理体制やリスク管理に取り組んでいます。

さらに、環境問題や食の安定供給などを課題とするサステナビリティ活動も推進。伊藤忠食品は、独自の商品開発とグループの連携を活かし、変化する市場と多様な食のニーズに対応しています。

一次産業まで手掛ける「ヤマエグループホールディングス」

ヤマエグループホールディングスは、九州を事業基盤とし、「社会との共生」をコンセプトに掲げる総合流通企業です。

同社グループは、サプライチェーンの川上(一次産業)から川下(最終消費者)に至るまで、調達、製造・生産、卸売・物流、販売・小売といった工程をグループ全体で担うサプライチェーンビジネスを展開。「つなぐ」ことを使命とし、食の流通を通じて社会への貢献を目指しています。

食品関連事業においては、一般加工食品から冷凍食品、酒類、農産物に至る卸売業に加え、グループ内で畜肉加工、惣菜製造、焼酎製造、さらには養鶏や養豚といった一次産業まで幅広く手掛けています。

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これにより「九州ブランド」の農水畜産物をはじめとする多様な商材の品質確保と安定供給体制の構築を目指しています。

また同社は、サステナビリティへの取り組みも積極的に推進しています。規格外野菜を活用した商品開発や、食品残渣を飼料や燃料へ循環させるリサイクル事業などはその具体例です。

流通の効率化や地域社会との連携を含むサステナビリティへの取り組みを通じて、食の分野における社会貢献を目指しています。

業務用食品卸トップシェアの「トーホー」

トーホーは、「食を通して社会に貢献する」という経営理念のもと、業務用食品卸売業界で国内トップシェアを誇る企業グループです。

外食ビジネスを営む顧客への食材卸売を行う「ディストリビューター事業」を中核に、業務用食品現金販売店「A-プライス」を展開する「キャッシュアンドキャリー事業」、さらに厨房機器や店舗設計、業務支援システムなどを提供する「フードソリューション事業」を連携させ、外食ビジネスのニーズにワンストップで応えるサービスを提供しています。

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同グループは、国内外の産地から食材を調達することや、品揃えの充実に注力しており、商品調達に取り組んでいます。また、顧客ニーズに合わせたプライベートブランド商品の開発や、厨房内での作業効率化を考慮した商品の提案も行っています。

近年は、西日本に加え、関東地区と海外を重点領域と位置づけ、M&Aも活用しながら事業基盤の整備を進めています。

トーホーグループは、「美味しくて、安心・安全な食の提供」や「持続可能な経営」など5つの重要課題(マテリアリティ)を掲げ、サステナビリティ経営に取り組んでいます。

業務スーパーを全国展開する「神戸物産」

神戸物産グループは、原材料の生産から加工、販売までを一貫して行う独自の「食の製販一体体制」を構築し、食品市場でユニークなポジションを確立しています。

この体制を基盤に、主力事業である「業務スーパー」のフランチャイズ本部として、商品の企画・開発から調達までを手掛け、品質の良い商品をベストプライスで提供することを目指しています。

「業務スーパー」の強みは、「エブリデイロープライス」というコンセプトと、それを支える徹底したローコスト運営にあります。

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国内に多数保有する自社食品加工工場でのオリジナル商品製造や、世界約50カ国からの中間マージンを省いた直接輸入品の展開を通じて、独自の商品開発と価格設定を目指しています。

牛乳パック入りデザートや特色ある冷凍食品など、話題性の高いPB商品は特徴的な商品として展開されており、店舗の魅力となっています。また、外食・中食事業(「神戸クック・ワールドビュッフェ」「プレミアムカルビ」「馳走菜」など)も展開し、製販一体のスケールメリットを活かした事業間のシナジーも追求しています。

また、エコ再生エネルギー事業として太陽光発電や木質バイオマス発電所を運営するなど、環境への配慮も事業活動に取り入れています。

>業務スーパー流のDXとは?神戸物産・沼田博和社長インタビュー

業務用野菜のリードカンパニー「デリカフーズホールディングス」

デリカフーズホールディングスは、業務用野菜の卸売およびカット野菜の製造販売において業界トップの地位を確立する企業グループです。

「野菜の未来を変える。野菜で未来を変える。」というパーパスを掲げ、単なる食材供給に留まらず、野菜の持つ可能性を最大限に引き出し、将来は「野菜の総合加工メーカー」として売上高1,000億円企業を目指すという明確なビジョンを持っています。

全国の契約産地との連携と、全国コールドチェーン化を実現した物流網を活用し、多くの顧客へ日々、野菜を供給しています。

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同社は、野菜の中身評価に基づいた40,000検体を超える分析データベースや品質評価指標「デリカスコア」の構築など、野菜の機能性や栄養価に関する独自の研究開発に取り組んでいます。

カット野菜やミールキットを手掛けていることに加え、通常は廃棄される野菜の端材から作るだし「ベジブロード」や規格外野菜を利用したポタージュなど、フードロス削減を目指した商品開発にも積極的に取り組んでいます。

気候変動や担い手不足、物流難など農業を取り巻く厳しい環境変化に対し、同社は農業参入計画を進めるなど、調達から加工、提案に至るバリューチェーン全体の強化を図っています。

研究開発部門や物流子会社、コンサルティング機能を有するグループ会社が、顧客の多様なニーズに応えるべく事業を展開しています。人的資本を重視し、サステナビリティを経営の中核に据えることで、デリカフーズグループは「野菜の力」を通じて持続可能な社会の実現を目指しています。

冷凍食品のファブレスメーカー「大冷」

大冷は、業務用冷凍食品の企画・開発・販売に特化したファブレスメーカーであり、特に「骨なし魚のパイオニア」として認知されています。

同社は、製造を国内外の協力工場に委託することで、市場調査や商品開発に経営資源を集中。医療食や介護食、弁当仕出し、外食産業といったプロの現場に対し、安全と安心を重視した製品を提供しています。

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同社の主要事業の一つである「骨なし魚事業」では、残骨除去を徹底し、凍ったまま調理可能な製品などを展開。「楽らく柔らかシリーズ」は特許製法による柔らかさと調理の簡便性、「楽らく調味シリーズ」は手軽に手作り感のある一品を提供できる点が特徴です。

近年は、ユーザーの低価格志向や一部商品の販売不振などから厳しい状況が続いており、特に骨なし魚事業での販売数量の減少や、えび事業における課題が影響しました。

同社は、骨なし魚事業での安価な商品の拡販や再構築などを通じて、各事業での課題解決と販売強化策を推進しています。