後継者問題に挑むM&A仲介銘柄:各社の戦略とテクノロジー活用

我が国では、経営者の高齢化に伴う中小企業の「後継者問題」が深刻化しており、事業の持続可能性を確保する上でM&A仲介サービスの重要性が一層高まっています。

そんなM&A仲介サービス市場では、AIを活用したマッチングの効率化やオンラインプラットフォームによる情報提供の迅速化など、「M&A Tech」の進展が業界のサービス形態に変革をもたらしつつあります。

一方で、M&A市場は景気動向や金融環境に大きく左右され、案件の成否やタイミングには依然として不確実性が伴います。
加えて、高度な専門知識と交渉能力を持つ人材の確保・育成は、サービスの質を維持し、競争優位性を確立するための継続的な課題です。

本稿では、そうしたM&A仲介業界の動向を踏まえ、各プレイヤーの取り組みと直面するリスクについて考察します。

後継者問題解決のM&Aプラットフォーム「日本M&Aセンターホールディングス」

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株式会社日本M&Aセンターホールディングスは、全国の公認会計士・税理士が中心となり1991年4月に設立された、M&A仲介業務を主軸とする企業グループです。
企業の深刻な後継者問題を解決し、事業の継続と発展に貢献することを理念とし、国内の中堅中小企業M&A市場をメインターゲットとしています。

同社グループは、全国的な情報ネットワークや、長年の仲介実務で培われたとされる独自のノウハウを事業運営上の特徴としています。
金融機関や会計事務所等との連携を通じて、案件情報を効率的に収集する体制を構築しているとされます。
また、M&A仲介に留まらず、子会社を通じた小規模向けオンラインマッチング「BATONZ」、PMIコンサルティング、TOKYO PRO Marketへの上場支援、幅広いサービスの提供を目指しています。

国内中堅中小企業のM&A市場は、少子高齢化などを背景に今後も安定的な拡大が見込まれます。
同社グループは、コンサルタントの採用・育成を推進し、ミッドキャップ案件への注力や地域金融機関との連携を通じてサービス領域を拡大し、将来的な成長ポテンシャルを追求しています。

事業運営上の主なリスクとしては、M&A仲介事業への高い依存による市場環境の変化や成約率低下の影響が挙げられます。
参入障壁が低い業界での競合激化や、過去の不適切報告事案、特定の経営者への依存もリスク要因です。

人材育成とノウハウを活用したM&A支援「M&Aキャピタルパートナーズ」

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M&Aキャピタルパートナーズ株式会社は、2005年に設立され、M&A仲介・アドバイザリー業務を中心に展開しています。
同社グループは、株式会社レコフ等を含み、主に国内の未上場オーナー企業や中堅・中小企業の事業承継ニーズに対応しています。

同社グループは、これまでの成約実績や長年の業歴で培われたとされるノウハウ、助言体制、独自の教育研修体制を事業運営上の特徴として挙げています。さらに、子会社のレコフデータが提供するM&Aデータベースや専門メディアが、市場の情報提供に一定の役割を果たしていると考えられます。

同社グループは優秀な人材の確保・育成を重視しており、業績評価型のインセンティブや独自の教育研修制度により、早期戦力化とスキル向上を推進している模様です。

今後の事業展開においては成長の機会が模索される一方で、事業運営にはいくつかのリスクが存在します。
例えば、優秀な人材の流出、法改正や法的規制による影響、そしてM&A関連サービスへの単一事業依存による市場低迷リスクが挙げられます。
これらの課題に対し、同社グループは人材定着策、法改正への対応、必要に応じた周辺事業の検討など、リスク低減に向けた施策に取り組んでいます。

インターネットを活用したM&Aマッチング事業を展開「ストライク」

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株式会社ストライクは1997年に設立されたM&A仲介を主たる事業とする企業です。
同社は、特定の資本グループに属さず、常に独立性と公平性を保ちながら、友好的なM&Aの実現を目指し、譲渡側と買収側の双方から報酬を受領するビジネスモデルとされています。

M&A仲介市場において、同社はテクノロジーの積極的な活用で差別化を図っています。
国内初とされるインターネット上のM&Aマッチングサイト「M&A市場SMART」を構築し、これを活用することで、効率的な相手先探索の支援を目指しています。
また、M&A専門の情報サイト「M&A Online」による情報発信や提携強化も、同社の事業展開における特徴的な取り組みの一つです。

国内のM&A市場は、企業の成長戦略や事業再編、オープンイノベーションなど多様な目的での活用が進んでいるとされ、政府のスタートアップ育成施策なども市場の活性化に影響を与えていると言われています。
同社もM&Aコンサルタントの増員を計画するなど、こうした市場環境の変化に対応し、事業基盤の強化を図っている模様です。

ただし、法規制の動向、M&A案件の成約時期が外部要因で左右される可能性、優秀な人材の確保・育成、情報セキュリティリスクなどは、事業運営上のリスクになり得ます。
これらのリスクに対し、同社は社内管理体制の整備、従業員の専門性向上、案件進捗管理の強化などで対処を図っています。

>>ストライクについてもっと詳しくレッドオーシャン化するM&A仲介――それでもストライクが伸びている理由

AI活用によるM&A効率化への取り組み「M&A総研ホールディングス」

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株式会社M&A総研ホールディングスは、2018年10月にM&A仲介事業を主目的として設立され、2023年3月には持株会社体制へ移行しました。
現在はM&A仲介を中心に、コンサルティングや資産運用コンサルティングなども手掛けています。
同社グループは、テクノロジーを活用した効率的なM&Aサービスを提供することで成長を目指しています。

同社グループのM&A仲介事業では、「M&A Tech」と称するテクノロジーの活用を推進しています。
特にAIを中心とした技術を用いることで、M&Aのプロセスにおける候補企業探索の属人性を低減し、データに基づいた高速かつ高精度なマッチングの実現を目指しているとされます。
また、自社開発によるDX推進は、社内業務の効率化を図り、M&A成約までの期間短縮に繋げることを意図した取り組みとして特徴的です。

同社グループは、こうしたテクノロジーによる効率化とM&Aアドバイザーの専門性を組み合わせたハイブリッドなサービス提供を、競争力強化のための重要な要素と位置づけているようです。
今後は、AIマッチング精度の向上、優秀な人材の採用・育成、DX推進などを通じて、更なる業容拡大を図る方針を示しています。

一方、景気悪化などによるM&A市場全体の低迷は、同社グループの業績に影響を与える可能性があります。
また、急速な組織拡大に対応するための内部管理体制及び業務執行体制の構築も重要な課題として認識されています。

>>M&A総研ホールディングスについてもっと詳しくM&Aアドバイザーは平均年収2800万円!創業者が語る 「M&A総合研究所が爆速で業界2位になれたワケ」

専門分野特化とシナジーで市場を拓く「ブティックス」

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ブティックス株式会社は2006年に設立され、主に介護・健康施術業界向けの商談型展示会開催と介護・福祉業界の事業承継ニーズに応えるM&A仲介サービスを主軸に展開しています。
M&A仲介事業では介護・福祉に加え、近年は建設やITなど対象分野を広げているところが特徴的です。

同社のM&A仲介は、小規模案件が多い業界特性に対応し、最低手数料100万円という価格体系を打ち出しています。
これは、商談型展示会ビジネスで培ったネットワークや提携金融機関からの情報、自社保有の10,000社以上のリストを活用し、効率的な買い手候補の探索や成約期間の短縮を図ることで実現しています。

我が国における高齢化に伴う介護・福祉業界等の後継者不足を背景に、事業承継M&Aの需要は拡大傾向にあると指摘されています。
同社は、展示会とのシナジー効果や対象分野の拡大を通じて、こうした市場機会への対応を図る戦略を推進していると考えられます。

ただし、事業運営においては、市場環境の変化や法規制の改正、人材の確保や育成、競合激化といったリスク要因も存在します。
これらの動向には引き続き注意が必要でしょう。

>>ブティックスについてもっと詳しく介護業界向け展示会「CareTEX」を主催!M&A仲介も展開する新規上場企業「ブティックス」

“相談されたら断らない”方針のM&Aアドバイザリー「ジャパンM&Aソリューション」

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ジャパンM&Aソリューション株式会社は、2019年11月に設立されたM&Aアドバイザリー専業企業です。
会社規模や財務状況に関わらず「相談されたら断らない」という方針を掲げ、また依頼者の負担を抑えるリーズナブルな手数料体系を採用している点が特徴です。

M&A仲介市場 には多数の競合が存在する状況ですが 、同社は金融機関や士業といった提携先とのネットワークにより安定的にМ&A案件を獲得しています。
M&Aアドバイザーが一気通貫で担当する体制により、サービスの効率性を高めつつ、幅広い譲受候補企業探索のためにM&Aプラットフォームも活用。
さらに、買収意欲のある企業の相談を事前に受け、ニーズを把握・蓄積する施策も行っています。

同社は、継続した採用活動や社内研修を実施し、ワークライフバランスを実現しやすい制度やストック・オプション制度を整備することで、人材確保・定着を目指しています。
また、組織拡大に伴う内部管理体制の強化を図るため、社内規程の整備、業務フローの構築、内部監査にも取り組んでいます。

同社は、市場環境によるM&A案件の変動リスクや案件の不成立・遅延リスク、特定の個人への依存リスクに対し、優秀な人材確保・育成や権限委譲を進めることで対応を図っています。

M&Aアドバイザリーの”プロジェクト・マネジメント”を提供「オンデック」

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株式会社オンデックは、2007年12月に設立された中小企業を主な対象とするM&Aアドバイザリー事業を展開しています。
同社は譲渡希望企業と買収希望企業双方に対する仲介、または一方のフィナンシャルアドバイザーとして、M&Aの実行を支援しています。

同社はM&Aを、単なる手続きではなく企業の成長と変革を実現する「プロジェクト・マネジメント業務」と位置づけ、高品質なアドバイザリーサービスの提供を重視しています。
経験豊富な専門人材に加え、弁護士や公認会計士といった外部専門家との連携により、多角的な視点でのサポートを実現。
サービスの質向上に向け、人材育成や社内でのナレッジ共有、週次会議等による案件管理体制の強化を進めています。

また、金融機関や専門家とのネットワーク強化Webプラットフォーム構築といった具体的な施策を通じて、案件獲得力とマッチング精度の向上を図っており、成長企業への出資・支援を行う事業投資部も設立しています。

一方で、M&A案件が当事者の意向に大きく左右され、成約に至らない場合やクロージングが遅延することによる業績変動リスクが存在します。
また、高度な専門知識を持つ人材の確保・流出リスクも事業運営上の重要な課題です。
これらのリスクに対し、同社は内部統制やリスク管理体制の強化、人材への継続的な投資などにより対応を図る方針です。

独自の料金体系で小規模M&A案件に対応「インテグループ」

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2007年6月に設立されたインテグループは、優良企業の存続・発展や経済全体の生産性向上への貢献をビジョンに掲げる企業です。
同社はM&A仲介会社として圧倒的なリーディング企業を目指すとともに、プロフェッショナリズムを重要な価値観として事業を推進しています。

同社のサービスモデルの核心は、売り手・買い手双方からの完全成功報酬制にあるとされます。
M&Aが成立した場合にのみ報酬が発生する仕組みであり、顧客にとっては着手金等の初期コストを抑えられるという特徴があります。

また、最低成功報酬額を業界大手と比較して低めに設定しており、国内中小企業M&A市場の多数を占める小規模案件において、価格面での訴求力を持つと考えられます。
成功報酬の算定基準に売買金額ベースを採用している点は、顧客にとって報酬体系の分かりやすさやコストの透明性に繋がるとされます。

同社の事業運営にはリスクも存在します。
完全成功報酬制に起因する業績の不確実性や、単一セグメントへの依存、そして優秀な人材を継続的に確保・育成できるかどうかも、継続的に対処すべき課題です。

東海地方の営業基盤とネットワークを活かしたM&A仲介「名南M&A」

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名南M&A株式会社は、名南コンサルティングネットワークの一員として2014年に設立されたM&A仲介専門会社です。
長年にわたる東海地方での経営支援実績を基盤とし、主として中堅中小企業の事業承継や事業再編M&Aを支援しています。
地域金融機関や信用金庫、国の事業引継ぎ支援センターなど、広範なネットワークを構築している点が特徴として挙げられます。

M&A仲介業務では、譲渡・買収ニーズのマッチングから最終契約までのプロセスを一貫してサポートします。具体的な施策として、名南コンサルティングネットワークに属する税理士等の専門家と連携し、多角的な知識を活かした提案を行っています。

また、全国の会計事務所との連携強化による案件獲得や、アドバイザーの継続的な育成を通じて、案件成約率の向上を目指しています。
大阪や静岡への拠点展開も進めており、営業基盤の拡大に注力しています。

一方で、有能なM&Aアドバイザーの継続的な確保と育成は、事業継続上の重要な課題となります。
さらに、法規制の変更リスクや、親会社からの経営判断への影響力も潜在的なリスク要因として挙げられます。
機密情報を扱うため、情報セキュリティ管理も重要です。